東京高等裁判所 昭和56年(行コ)34号 判決
東京都八王子市小門町五三番地
東邦開発株式会社訴訟承継人
控訴人
木住野商事株式会社
右代表者代表取締役
木住野哲男
右訴訟代理人弁護士
嶋村富士美
同
佐々木茂
同
鈴江辰男
東京都八王子市子安町四丁目四番九号
被控訴人
八王子税務署長
田川清八郎
右指定代理人
桜井登美雄
同
重野良二
同
金田哲夫
同
大原豊実
右当事者間の法人税更正処分取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
当審における追加的併合にかかる本件通知処分取消の訴を却下する。
当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
(控訴人)
一 原判決を取消す。
二 被控訴人が昭和五二年一二月二六日付でした東邦開発株式会社の昭和五一年七月一日から昭和五二年六月三〇日までの事業年度の法人税の更正処分を取消す。
三 (当審における追加的併合にかかる請求) 被控訴人が昭和五二年一二月二六日付でした東邦開発株式会社の欠損金の繰戻しによる還付請求の一部に理由がない旨の通知処分を取消す。
四 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
(被控訴人)
一 控訴について
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
二 追加的併合にかかる請求について
右訴を却下する。
第二当事者の主張及び証拠
当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加するほかは原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
(控訴人)
一 請求原因の追加
1 被控訴人は、昭和五二年一二月二六日に、第一審原告東邦開発株式会社(以下東邦開発という。)がなした欠損金の繰戻しによる法人税額の還付請求に対し、その一部に理由がない旨の通知処分(以下本件通知処分という。)をした。
2 しかし、本件通知処分は原判決事実摘示請求原因2と同一の理由で違法であるからその取消を求める。
3 もっとも、控訴人は、本件通知処分について異議申立、審査請求の手続を経ていないが、本件通知処分と同時になされ、実質上の争点が同じである本件処分(更正処分)については審査請求手続を経ているから、本件通知処分については行政事件訴訟法八条二項三号所定の「裁決を経ないことにつき正当な理由がある」というべきである。控訴人側としては本件処分が取消されない以上、本件通知処分の取消を求めるのは無意味と考えたがゆえに、異議申立、審査請求の手続をしなかったのであり、また、被控訴人行政庁側としても、本件処分の審査手続において控訴人が欠損金の繰戻しによる還付の請求をしていることを知りながら、本件処分の外に通知処分についても別途に取消請求をすべきことをあえて控訴人に教示しなかったのであり、これら事情からみても、右の正当な理由があるとみるべきである。
二 控訴人の主張の補充
本件債権は昭和五二年六月二八日当時、すでに客観的に回収不能だったものであり、東邦開発は、同日、真実に本件債権を放棄したのであるとの主張をさらに敷衍する。
1 昭和五二年六月二八日当時、株式会社キヨは金融筋から見放され、主力生産工場の操業も停止し、代表者の安富も債権者に追われて昼間は所在が判らないという状態であって、本件債権の回収は客観的にも不能であった。キヨの財産状態は不良債権や販売困難な在庫商品を多くかかえ、みかけ以上に悪かったのであり、このことは会社整理申立事件において検査役がキヨには整理の見込みがないと宣言したことからも明らかである。
2 キヨ側は、右当時、なんとか破産を免れ、キヨ自体の再建を計る方針だったのであり、代表者同士が昵懇であった東邦開発は、キヨの強い要請をうけ、また、キヨの前記内情にも通じていて債権が回収不能であることを熟知しており、キヨ再建後にえられるより大きな利益を期待したため、他の債権者に先駆けて、本件債権を真実に放棄したのである。
新会社設立による再建案は、昭和五二年八月一九日の第二回債権者会議の直前に急拠具体化したものであり、しかも、右案自体が債権者の追及をかわすための方便にすぎなかったことは、その後設立された新会社ヘラルドが旧債務を全く弁済できないまま昭和五四年六月ころ倒産したことからも明らかである。
3 なお、本件債権放棄後も東邦開発が債権者として扱われたのは、もっぱらキヨ側の事情によるものであって、これをもって放棄が真実でないというのは不当である。すなわち、キヨはみずからその再建を期して本件債権放棄をうけたが、その後新会社による再建方針にきりかえたため、他の債権者と同様に、東邦開発についても一旦放棄をうけた債権の一部について新会社ヘラルドに債務引受をさせて責任を果たそうということになったのであり、東邦開発側が進んで債権を行使したわけではないのである。
4 したがって、東邦開発のキヨへの債権放棄書の差入れとその後のヘラルドとの和解契約の締結とは、実質的にみても、債権の確定的放棄と新債権の取得として評価するのが正当である。そして、事業年度経過後に偶々債権の一部回収が可能な状況が生じた場合には当該事業年度の貸倒れ処理が誤りとなるというのでは、法人税法の建前である事業年度単位で損益の帰属を決定するということ自体が極めて困難になり、ひいては企業経営にも支障をきたすことにもなるのであり、したがってあくまでも、損益の帰属はその事業年度末における状況によって判断すべきであって、その後に生じた事情を考慮することは不当である。
三 訴訟の承継
東邦開発株式会社は昭和五六年七月二三日控訴人に合併されて消滅し、控訴人がその地位を承継するとともに本件訴訟を承継した。
四 証拠関係の追加
甲第四号証、第五、第六号証の各一、二を提出し、当審における証人安富清之の証言及び控訴人代表者尋問の結果を援用。当審提出の乙号各証の成立(第一〇号証の一ないし一四、第一一号証の一、二、第一二号証の二については原本の存在及び成立)はすべて認める。
(被控訴人)
一 追加請求原因の認否
1 本件請求原因の追加には異議がある。
2 追加請求原因1の事実は認める。
3 控訴人は本件通知処分について行政上の争訟手続を履践せずに出訴期間も経過したから、右処分の効力は確定している。
二 被控訴人の主張の補充
1 本件債権の回収不能が、昭和五二年六月二八日当時、客観的に確実であったとはいえないことは、次の各事実に照らしても明らかである。
(一) キヨの代表者安富清之は電気製品の輸出貿易については極めて豊かな経験と力量とを有し、同年六月にも海外の発表会で新製品が好評を得るなどキヨ再建のために充分な意欲を示していた。
(二) 新会社設立による再建案は同年八月一九日の第二回債権者会議において詳細な報告書(乙第一三号証)をもって具体的な計画として発表されたが、キヨとその関連会社はすでに同年六月、右計画に伴う工場移転を完了させており、また、右計画内容からみて、その立案作業が同年六月末当時、すでにかなり進展していたことは明らかである。
(三) そして、キヨは会社整理申立後も営業活動を継続し、同年六月にもかなりの収益をあげており、同月末当時の財産状態も、わずかに債務超過になっているものの、短期貸付金、土地などの換価性のある資産だけでも四二億円余にのぼり、優先債権者に対して担保付債権など約一八億八四〇〇万円を弁済しても、一般債権者は相当な配当が期待できたはずである。
(四) とくに、東邦開発代表者とキヨ代表者とは、親しく交際し、同年六月当時にも数回面談しているから、東邦開発は他の債権者以上に右(一)ないし(三)の事情を精通していたと思われる。
2 東邦開発は、本件債権放棄書の差入れによって、真実に本件債権を放棄したものではなく、右差入れは、このような形式をとることによりキヨの新会社による再建を容易にし、本件債権を回収するための方策として行われたものとみるべきことは、以下(一)ないし(四)に記載したところに照らしても明らかである。
(一) 東邦開発は放棄書差入後、短時日を経ずして本件債権の債権者たる地位において行動し、またキヨも東邦開発をその債権者とする諸手続を行っている。
(二) 本件債権全額について、何ら具体的な見返りもなしに、とくに自己のキヨに対する債務の免除もうけないで、確定的に放棄することはありえない。
(三) 本件と同様の放棄書は、東邦開発以外の一般債権者十数社からも同年八月上旬付でキヨに差入れられているが、前記第二回債権者会議の通知はその数日後である八月一三日に右債権者らにも発送され、うち数社は右会議にも出席しており、このことは、放棄書差入後も、キヨがこれら各社を債権者として取扱い、各社も債権者として行動していたことを物語るものである。しかも、右会議においては、再建にとって好材料であるはずのこれら債権放棄について何らの報告もなされていないのである。
(四) ところで、右(三)の事実に照らすと、東邦開発の債権放棄だけが他社と異なり同年六月二八日になされたことになるが、これは同社の事業年度にあわせるため放棄書の日付をさかのぼらせて作成されたことによるものではないかとの疑問すら生ずる。
3 なお、被控訴人は、東邦開発が同年九月一三日キヨ及び新会社ヘラルドとの間で締結した和解契約に基づき放棄した本件債権の七割相当額について、同年七月一日から昭和五三年六月三〇日までの事業年度の損金として認めて昭和五五年三月一二日に減額更正処分をしている。
三 訴訟の承継
控訴人の訴訟の承継についての主張は認める。
四 証拠関係の追加
乙第一〇号証の一ないし一四、第一一、第一二号証の各一、二、第一三ないし第一七号証を提出。甲第四号証、第六号証の二の成立は認め、第六号証の一の成立は知らない。甲第五号証の一、二は、いずれも官署作成部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は知らない。
理由
第一本件更正処分取消請求について
一 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、本件債権が本件事業年度において貸倒れとなったか否かについて判断する。
1 本件債権の放棄書(甲第二号証)が昭和五二年六月二八日付で作成されていることは当事者間に争いがない。
2 成立に争いのない乙第七、第八号証の各二、第九号証、第一二号証の一、第一三、第一四号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第二号証、乙第一ないし第六号証、第一〇号証の一ないし一四第一一号証の一、二、第一二号証の二、原審証人熊谷孝雄、当審証人安富清之の各証言(いずれも後記措信しない部分を除く。)、原審(第一、二回)及び当審における控訴人代表者の供述(原審第一回及び当審の供述中、後記措信しない部分を除く。)によれば、次の各事実が認められ、原審証人熊谷、当審証人安富の各証言、原審(第一回)及び当審における控訴人代表者の供述中、この認定に反する部分は、前示の各証拠に照し直ちに措信しがたく、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。
(一) キヨは弱電気製品の対米輸出販売を主たる営業内容とした資本金約六四〇〇万円の会社であったが、昭和四九年のいわゆるオイル・ショック以降の輸出不振とその対策の失敗から経営状態が悪化し、昭和五二年一月二五日には約一〇〇億円の負債をかかえて手形の不渡りを出し、同月二六日に東京地方裁判所に会社整理の申立をし、同月二八日財産保全命令をえたが、整理開始の目処も立たなかったところ、同年六月二一日は、同じキヨグループで生産部門を担当し、キヨと同じく安富清之が代表する株式会社オートソニック(以下オートソニックという。)も会社整理申立のやむなきに至り、裁判所は同月二三日、キヨとオートソニックとにそれぞれ監督員を選任して会社再建の可能性の有無等について厳しく監督させることになった。
(二) キヨの代表者安富清之は、キヨの再建をはかるべく、主力商品を売行き不振のトランシーバーから新たに開発したデジタル時計付カーステレオに切り換えることを計画し、同年六月上旬のアメリカでのOEショー(新製品発表会)でこの製品を発表して好評を博したが、そのころ、キヨとオートソニックの一部とを統合した新会社を設立して同社を中心に右製品を量産して輸出販売してキヨグループを再建し、キヨ等の債務を弁済するという構想を立て、この構想は、まもなくセントラル電子工業株式会社などのキヨの債権者にも伝えられ、また、この構想に基づき同月中にオートソニックの生産工場の移転が行われた。
(三) そして、右安富らは、それから同年八月にかけて、この構想にそった具体的事業計画、債務弁済計画を立案し、他方、会社整理については、開始の見込みがうすいと判断してその申立てを取下げる方針をかため、同年八月上旬、新会社移行と右申立取下とを円滑に行う方便として、東久工業株式会社、セントラル電子工業株式会社など大口一般債権者を中心とした十数社からキヨへの債権(総額約二三億円)の放棄書の作成交付をうけた。そして同月一九日の第二回債権者会議において事業計画・弁済計画についての詳細な報告書(乙第一三号証)を配布し、会社整理申立の取下、新会社設立と同社による債務引受について諮って、出席債権者の了承を得た。なお、右会議の案内状は前記債権放棄書を出した債権者の大多数にも発送され、そのうちセントラル電子工業株式会社など三社は右会議にも出席した。また、右会議の席上、前記債権放棄書交付の事実については何らの報告もなされなかった。
(四) そして、右事業計画に基づく新会社として、同年九月ヘラルドが設立され、キヨ及びヘラルドとキヨの債権者のうち前記債権放棄書交付ずみの会社を含む五八社(債権総額約二九億円、キヨの一般債権の約九七パーセント)との間で、具体的な債務弁済契約を締結し、キヨはその同意を得て、同月二九日会社整理申立を取下げた。
(五) キヨと東邦開発との関係では、次の事実がある。
(1) 安富と東邦開発代表者木住野哲男とは、昵懇の間柄で、同年六月中にも数回面談し、前記新製品の話もした。
(2) キヨ及び安富清之が代表する東京商事株式会社(ただし、同社は実体がない名義上の会社にすぎなかった。)と東邦開発とは同年八月六日、本件債権を東京商事株式会社が全額債務引受をする旨の契約をし、東邦開発は同日キヨの会社整理申立取下の同意書を作成した(債務引受契約及び同意書作成の事実は当事者間に争いがない。)。
(3) キヨは前記第二回債権者会議の案内状を東邦開発に送付した。
(4) キヨ及びヘラルドと東邦開発とは、同年九月一三日に本件債権を確認し、ヘラルドがその三割相当の約二一六二万円を重畳的に債務引受し、その支払をうければ、東邦開発がその余の本件債権を放棄する旨の和解契約を締結した(この事実は当時者間に争いがない。)。
(5) キヨの前記会社整理申立の取下書には、前記十数社の債権放棄書が添付され、また同添付の債権一覧表(乙第一〇号証の二はその写し)では、右十数社は「放棄」の欄に区分されているのに、東邦開発の債権放棄書はこれに添付されず、右表でも「放棄」でなく「和解」の欄に区分されている。
(6) キヨは、東邦開発に対し、昭和五三年一月三一日に、前記和解契約で本件債権の七割相当額を東邦開発が放棄したことに基づき同年五月末日の決算期をもって、その旨の経理処理をするとの確認を行った(この事実は当事者間に争いがない。)。
(7) 東邦開発は昭和五二年六月当時、キヨの関連会社であるキヨクリスタイル工業株式会社に対し約八七五万円の預り金債務を負担していたが、本件債権放棄書作成当時にはその相殺処理は行われず、ヘラルドが業績不振となった後の昭和五三年七月一日以降にいたって右預り金債務と同社への本件債権の一部引受分とが相殺処理された。
3 右2認定の各事実によれば、昭和五二年六月二八日当時、東邦開発はキヨが新会社設立により再建する方針であることを知っており、しかもそれが可能であると判断していたものと推認することができ、原審(第一回)及び当審における控訴人代表者の供述中、右推認に反する部分はにわかに措信しがたく、他に右推認を覆すに足りる証拠はない。してみれば、東邦開発がその時点で真実に本件債権全額を放棄すること、とくに関連会社に対する債務との相殺処理もしないで放棄することは考えがたく、右2(五)で認定した各事実をも勘案すれば、東邦開発の本件債権放棄書作成はセントラル電子工業株式会社など十数社の前記債権放棄書と同様に、キヨの新会社移行による再建を円滑にすすめる目的で作成されたものであって、これにより真実に本件債権全額を放棄したものではないというべきである。原審証人熊谷孝雄、当審証人安富清之の各証言、原審(第一回)及び当審における控訴人代表者の供述中、右判断にそわない部分は措信しがたく、また、甲第一号証、第三号証も右判断を覆すに足りるものではない。もっとも、原審(第一、二回)における控訴人代表者の供述によれば、ヘラルドも本件債権の一部引受分を全く弁済しないまま倒産してしまったことが認められ、成立に争いのない甲第四号証によれば、本件債権放棄書作成後まもなく、東邦開発はキヨに対し本件債権額と同額のキヨ振出の約束手形一三通を返還したことが認められるが、これら事実も右判断を覆すに足りないというべきであり、他に右判断を覆すに足りる証拠はない。しかも、前記2認定の事実、特に同(三)及び(五)(5)認定の各事実を考えると、本件債権放棄書が真実に本件事業年度中に作成されたかについてすら、疑問の余地があるといわなければならない。
そして、右2認定の各事実によれば、ヘラルドが結局において本件債権一部引受分を弁済できなかったという事実を勘案しても、本件事業年度において本件債権がすでに客観的に回収不能であったということはできない。
4 以上のとおり、本件債権は、昭和五二年六月二八日に放棄されてはおらず、また、本件事業年度中に客観的に回収不能であったともいえないから、これを貸倒れとして東邦開発の本件事業年度における損金に計上することはできないというべきである。
三 したがって、本件更正処分には控訴人が主張するような瑕疵はなく、本訴請求中、その取消を求める部分は理由がないから棄却すべきである。
第二本件通知処分取消請求について
一 被控訴人は、当審において、本件通知処分取消請求を追加した。そして、成立に争いのない乙第一五ないし第一七号証及び弁論の全趣旨によれば、東邦開発は本件事業年度の確定申告書提出と同時に本件事業年度に本件債権の貸倒れにより生じた欠損金をその前年度に繰戻すことにより、前年度の法人税額の還付を求める請求書を被控訴人に提出したところ、被控訴人は、本件更正処分と同じ昭和五二年一二月二六日に、本件更正処分と同じ理由、すなわち、本件債権が本件事業年度に貸倒れになったとは認められず損金に算入することはできないとの理由により、本件通知処分をしたことが認められる。したがって、本件更正処分が理由がないとして取消されるときは、本件通知処分も理由がないとして取消されるべき関係にあり、本件通知処分取消請求は本件更正処分取消請求と関連する請求(行政事件訴訟法一三条六号)であるということができる。
しかし、本件通知処分取消請求の追加について被控訴人が異議を述べ、これによって不同意の趣旨を明らかにしていることは記録上明らかである。ところで、右請求の追加が、行政事件訴訟法一九条一項に基づくものであれば、控訴審たる当審での追加に被控訴人が同意をしない以上、右訴は併合要件を欠き、不適法というべきであり、また、右請求の追加が同法一九条二項、民訴法二三二条に基づくものであるとしても、両請求が請求の基礎を同一とするかについてなお疑問の余地があるばかりでく、この場合でも、行政事件訴訟法一九条一、二項を対比して考えると、前記したところと同様にその訴の変更には被控訴人の同意が必要であると解すべきであるから、その同意がない本件においてはやはり要件を欠き不適法といわざるをえない。なお、被控訴人には、右同意しないことについて理由を述べる義務はないから、右不同意をただちに権利の濫用ということはできないし、控訴審における関連請求の追加あるいは訴の追加的変更が被控訴人の審級の利益に具体的不利益を与えるか否かも、同意の要否の判断に影響を与えるものではない。
二 しかも、控訴人が本件通知処分について、異議申立、審査請求などいわゆる前置手続を履践していないことは当事者間に争いがない。控訴人が本件更正処分については審査裁決を経由していること、本件通知処分は本件更正処分と同日に、同じ理由でなされ、したがって右二つの処分の基礎となった事実関係は共通であり、控訴人の両処分に対する不服の事由(右二つの処分の取消請求の争点)も同一であることは、前判示のとおりであるが、しかし、それだけでは当然に本件通知処分について異議申立の前置手続の履践を不要と解することはできず、また、異議申立を経ないことについて国税通則法一一五条一項三号の正当な理由があると解することもできないといわざるを得ない(前掲乙第一六号証(本件通知書)にはこの処分に不服があるときは、この通知を受けた日の翌日から起算して二月以内に八王子税務署長に対して異議申立てをすることができる旨記載されている。)その他本件通知処分取消請求について異議申立の前置手続の履践を不要とし、あるいは、これを経ない正当な理由があることを基礎づけるに足りる事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、本件通知処分取消請求の追加は、この点からも不適法であるというべきである。
三 よって、本訴請求中、本件通知処分取消請求部分の訴は不適法であるから、却下すべきである。
第三結論
以上のとおりであって、本件更正処分取消請求を棄却した原判決は相当であり本件控訴は理由がないからこれを棄却し、当審における追加的併合にかかる本件通知処分取消の訴を却下することとし、当審における訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 森綱郎 裁判官 藤原康志 裁判官 小林克已)